離職はもう防げない——「つなぎ止め」を捨て、活躍の総量を最大化する
手当や面談を増やす“引き留め”は、もう効きません。人が動く量は増え、辞める理由の多くは前向きなものだからです。しかも離職率は横ばいでも、残る人と抜ける人の顔ぶれは逆転している。一次データを見ながら、つなぎ止めない前提での戦い方を考えます。

離職を減らしたい。そう考えて最初に手が伸びるのは、たいてい「引き留め」です。手当を足したり、面談を増やしたり、辞めそうな人に早めに声をかけたりします。どれも悪くはないのですが、これで人が残ったという手応えを持てている会社は、そう多くないように思います。
そもそも、いまの時代の離職は「防ぐ」ものではなくなってきているのだと思います。むしろ防げない前提に立ってしまったほうが、打ち手はかえってはっきりしてきます。
転職は、もう特別なことではない
まず、人が動く量そのものが増えています。総務省の労働力調査によると、1年間に離職を経験した「転職者」は、この10年で290万人台から330万人前後まで増えました。景気の波で上下はするものの、水準そのものが底上げされてきているのがわかります。
しかも若い世代ほど、転職はありふれた選択肢になっています。厚生労働省の雇用動向調査を見ると、転職して新しい会社に入る割合は20代後半がいちばん高く、年齢が上がるにつれて下がっていきます。じっくり育てたいと思う若手ほど、実際にはいちばん活発に動いているわけで、ここに育てる側のもどかしさがあります。
理由はいくつも重なっています。転職サービスの広告を見ない日はありませんし、働き方も待遇も、会社ごとの差は縮まりました。「隣の会社のほうが良さそう」と感じたときに動くためのハードルがとにかく低くなっていて、これを一社の頑張りで押し返すのは、正直むずかしいところです。
「離職率は変わっていない」に、だまされない
こう話すと、「うちは離職率が昔から横ばいだから問題ない」と考える人がいます。ところが、この「横ばい」こそが落とし穴になります。
大学新卒の3年以内離職率は、長いあいだ3割前後で推移しています。どこかで急に跳ね上がった、という類いの数字ではありません。
「3年で3割」は、実のところ何十年も言われ続けてきた数字です。だから率だけを眺めていると、何も変わっていないように見えます。けれど、その中身は静かに入れ替わってきています。
昔は、力のある人ほど一つの会社に残って出世していきました。いまは逆のことが起きていて、市場価値の高い人ほど業界をまたいで移り、そのたびに年収を上げていきます。会社に残りやすいのは、むしろ外に出る選択肢を持ちにくい人のほうだったりします。
かつて | いま | |
|---|---|---|
王道のキャリア | 一社に残って出世する | 業界を越えて移り、年収を上げる |
残りやすい人 | 力のある人ほど残った | 外に出にくい人が残りやすい |
抜けやすい人 | 合わない人が去る | 市場価値の高い人ほど動く |
率が同じでも、「誰が残って、誰が抜けているか」は変わってきています。ここを見落とすと、数字の上では健全なのに、組織の実力がじわじわ落ちていく、ということが起こります。離職率という一つの数字は、この入れ替わりを覆い隠してしまうのです。
守るのをやめて、「在籍中の価値」を最大にする
そこで、発想を切り替えます。いつか辞めることを前提にしたうえで、在籍しているあいだにどれだけ活躍してもらえるかに力を寄せていきます。守り一辺倒から、攻めへの転換です。
やること自体は、そんなに派手ではありません。内定を出したらすぐに歓迎を始めて、入社前のうちに現場とつなぎ、最初の30日のあいだに小さくても一度やり切ってもらえるようにします。地味な積み重ねですが、これが「活躍の前倒し」であり、いちばん確実な打ち手になります。
おまけに、早く活躍できた人は、結果として辞めにくくもなります。役に立てている実感がある場所を、人はそう簡単には離れないからです。定着は狙って作るものではなく、後からついてくるものです。順番が逆、というわけですね。
「バケツの穴」を、補充でごまかさない
人が抜けるたびにエージェント経由で採り直す、ということを繰り返している会社は少なくありません。ただ、入ってきた人が戦力になるまでには毎回それなりの時間がかかるので、穴の空いたバケツに水を足し続けているようなもので、水位はなかなか上がっていきません。
立ち上がりを速くするというのは、この穴をふさぐ話でもあります。消耗を止める守りと、価値を前倒す攻めが、ひとつの設計の中でつながっていきます。だからこそ、最初のところに手をかける価値があるのだと思います。
離職を止めることに注いでいた力を、活躍を早めるほうへ振り向けてみてください。それだけでも、見えてくる景色はずいぶん変わってくるはずです。